どうも、ひろきちです。
10/19(月)の米国市場で、ひときわ目立つ動きをしたのが、英国のバイオ企業サイレンス・セラピューティクス(SLN)です。ドイツの医薬・化学大手メルクKGaAに買収されることが発表され、株価は前営業日の約2.3倍の水準まで急騰しました。
買収価格は1株(ADS)あたり20ドルの現金です。今回は、この買収の中身と、株価が上がった理由、今後の注意点を、ひろきちの視点で整理します。
10/19のSLN:前営業日比+125%台の急騰
10/19、SLNは買収発表を受けて急騰しました。報道では、日中の上昇率は+125.58%と伝えられています(Yahoo Finance)。
買収価格の20ドルは、10/16の終値に対して130%のプレミアム(上乗せ)にあたります(Merck KGaA)。ここから逆算すると、10/16の終値は約8.7ドル前後だったことになります(ひろきちの計算です)。+125%の上昇なら、株価は約19.6ドル前後になる計算で、買収価格の20ドルにほぼ張り付いた形です。
SLNの最近の株価の流れを、買収価格と並べてみます。
| 時点・項目 | 株価(ドル) |
|---|---|
| 52週安値 | 4.19 |
| 8/10 プレマーケット(第2相の結果発表日) | 13.88 |
| 10/2 の株価 | 10.64 |
| 10/16時点の過去30日出来高加重平均価格(VWAP) | 10.99 |
| 10/16の終値(逆算) | 約8.7 |
| 買収価格 | 20.00 |
出典はFinviz、Marketchameleon、Merck KGaAのリリースです。この表から、8月の好データ後に13ドル台まで上がった株価が、買収発表の直前には9ドル近くまで下がっていたことが分かります。買収価格は、その水準から見ても大きな上乗せでした。
買収の内容:1ADSあたり20ドルの全額現金
発表された主な条件は次のとおりです(Merck KGaA、BioPharma Dive)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 買収価格 | 1ADSあたり20ドル(全額現金) |
| ADSと普通株の関係 | 1ADS=普通株3株(普通株1株あたり約6.67ドル) |
| 企業価値(EV) | 約11億ドル |
| 株式価値 | 約13億ドル |
| プレミアム | 10/16終値に対して130%、30日VWAPに対して82% |
| 完了の見通し | 2027年1-3月期 |
| 資金 | 新たな借入で調達 |
ADS(米国預託株式)とは、海外企業の株を米国市場で売買しやすくした仕組みです。SLNは英国の会社なので、米国ではこのADSで取引されています。
プレミアムの130%は、BioPharma Diveによると、同社が追跡している大型のM&A(企業の合併・買収)の中で、今年2番目に高い水準です。なお、買収するメルクKGaAは、米国の製薬大手メルク(Merck & Co.)とは別の会社です。米国とカナダでは、メルクKGaAは「EMD」などの名前で事業を行っています。
なぜ評価された? 主力薬ディベシランの第2相データ
メルクKGaAが注目したのは、SLNの主力候補薬「ディベシラン(divesiran)」です。真性多血症(PV)という、赤血球が増えすぎる血液の病気を対象にしています。PVは血液がんの一種で、血が固まりやすくなり、血栓のリスクが上がります。治療では、血を抜く「瀉血(しゃけつ)」が行われることが多い病気です。
ディベシランはsiRNA(小さなRNAで、病気に関わる遺伝子の働きを抑える薬)です。TMPRSS6という遺伝子の働きを抑えることで、鉄の代謝を調節するホルモン「ヘプシジン」を増やし、赤血球が作られすぎるのを抑えます。
第2相試験(SANRECO)の結果は、メルクKGaAのリリースによると次のとおりです。
| 項目 | ディベシラン | プラセボ(偽薬) |
|---|---|---|
| 有効だった患者の割合(主要評価項目) | 88% | 19% |
| 0〜36週の瀉血の回数(1人あたり平均) | 0.2回 | 2.1回 |
この表から、瀉血の回数が大きく減ったことが分かります。投与は3か月に1回で、安全性も大きな問題は見つかっていないと説明されています。試験は48人の患者を対象にした、二重盲検(患者も医師も、どちらの薬か分からない方式)の比較試験でした。
競合には、武田薬品工業とプロタゴニスト社が開発したPV向けの薬「Mimrylo」があります。BioPharma Diveによると、証券会社のアナリストの間では、ディベシランが「ベスト・イン・クラス(同じ分野で最も優れた薬)」になりうるとの見方が出ていました。一方で、第3相試験(最終段階の大規模試験)はこれからで、その費用や実行は、資金力のあるメルクKGaAが担うことになります。SLNの手元資金は、2026年6月末時点で7,200万ドルでした。
今後の注意点:株価は「買収価格」に近づく動きになる
今回の買収は、まだ完了していません。主な条件と注意点は次のとおりです。
(1)完了は2027年1-3月期の予定です。英国の会社を買収する際によく使われる「スキーム・オブ・アレンジメント(英国法上の手続き)」で行われます。
(2)完了には、規制当局の承認と、SLNの株主による承認が必要です。議決権の約14%を持つ株主は、すでに賛成する契約を結んでいます。
(3)買収価格が確定したため、今後の株価は、臨床試験の結果よりも「買収が予定どおり進むか」に左右されやすくなります。Yahoo Finance(GuruFocus)も、残る上昇余地は買収の完了に結びついていると指摘しています。
買収が決まった銘柄は、株価が買収価格(今回は20ドル)の近くに張り付き、その後の値動きが小さくなる傾向があります。買収価格と現在の株価との差は、完了までの時間や、完了しないリスクを市場がどう見ているかを表しています。取引が白紙になれば、株価は大きく下がる可能性があります。
ひろきちの見方:「第2相のデータ」が会社の価値を決めた
ひろきちが一番印象に残ったのは、8月の第2相データが良かったにもかかわらず、買収発表の直前まで株価が9ドル近くまで下がっていた点です。データへの評価と株価の間に、大きな差があったことになります。メルクKGaAは、その差を埋める価格を提示した形です。
また、SLNは従業員が約80人の小さな会社です。ブロックバスター(年間売上が10億ドルを超える薬)になりうる候補を持っていても、第3相試験を自力で進めるのは大変です。大手に買われることで、開発のスピードと資金の問題が一気に解決するのは、バイオ企業ならではの展開だと思います。
ただ、バイオ株は結果次第で大きく動くため、今回のような買収は例外的な出来事です。「バイオ株は買収が期待できる」と一般化するのは危険だと思います。
同じ10/19には、半導体大手のインテル(INTC)も、JPモルガンの格上げをきっかけに上昇しました。こちらは別の記事で解説しています。また、直近の個別銘柄の動きは10/12の注目3銘柄の記事でもまとめています。
なお、数字は報道ごとに差があります。株価は日中の時点のものを含みます。正確な終値は、ご自身の証券会社などでご確認ください。
資産の全体像や、ひろきちの運用実績は総資産公開の全記録はこちらにまとめています。
引き続き、無理せずコツコツと。次回もお楽しみに!
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
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